2015年5月10日に開催された、ソ連カルチャーカルチャー3、通称ソ連カルカルの発表資料を紹介したいと思います。
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今回は「ソ連時代海外旅行へ行きたくなったら」と題した発表資料です。
ソ連の人が海外へ行くためにはどれだけ大変だったのかを見て行きたいと思います。
ソ連時代、何をするにも手続きが大変でした。
その中でも特に大変だったとされる、海外旅行へ行くための手続きを見て行きたいと思います。
何もかもが大変だった海外旅行
まず、海外旅行へ行くため、ソ連から出るために必要となるものがあります。
- 外国用パスポート
今でもロシア人は国内で使用する身分証代わりのパスポートを普段から持ち歩いています。
そして、海外へ行くためには我々日本人と同じように外国用のパスポートが必要です。
- 出国ビザ
「入国ビザ」ではなく、「出国ビザ」です。
ソ連人がソ連を出るためにはこのビザが必要でした。
このビザには、 ・ソ連を出ていられる期間
・どこへ行くかこの2つが記載されていました。
それではこの「出国ビザ」の取得方法について見て行きたいと思います。
必要なものその1 「履歴書(A4用紙1枚)」
この履歴書には以下の内容を記載します。
- 仕事について
- 仕事の成績
- 社会活動について
- 結婚している場合は妻について
(名前、生年月日など) - 今までに旅行した場所
+「今まで旅行で注意されたことがありません」 - 自分の性格
(祖国を裏切るような人物ではないということを記載)
そして必ず書き加えた方が良い文があります。それは、
「私は精神的にしっかりしており、政治的な教養があり、同僚に尊敬され、ソ連の敵にも容赦なしです。」
このように履歴書を書き、最後に、
「◯◯(名前)同志が1985年5月10日~17日の間、ポーランドへ行くことを推薦します。」
と記載し、お偉いさんのサインを集める旅が始まります・・・
必要なものその2 「サイン」
先ほどの履歴書に推薦者のサインを貰います。
・第1のサイン
学生なら学課、社会人なら課のそれぞれトップ3人からサインを貰う。
・第2のサイン
学生なら学部、社会人なら部のそれぞれトップ3人からサインを貰う。
サインを貰うんだけだからスムーズに行くだろうと思うのですが、この辺りでよく罠が待っています。
例えば、
「党委員会の会議で認めてもらわないとダメだ。」
と言われます。
「それでは次の会議はいつなんでしょうか?」
と質問すると、
「会議は昨日だった。次は2週間後だ。」
と返事が返ってきます。その場でサインが貰えるのはまれなことなのです。
催促して、待って待ってようやく第2のサインを貰うことが出来ました。次は・・・
・第3のサイン
- 社長
- 労働組合委員会会長
- 党委員会会長
- コムソモール委員会会長
(28歳以下の人の場合)
これで本当に最後のサイン。
一番偉い人たちのサインを集めます。
しかしここでも一筋縄では行きません。
なかなか労働組合委員会会長が捕まらなかったり、また党委員会の会議まで待たされます。
党委員会の会議が始まるとあれこれ色々と質問されます。
「引退したお年寄りのため、メーデーに何回公演が行われたか?」
離婚している人は、「なぜ離婚したか?」などとプライベートなことも聞かれます。
この質問に対しては、
「性格が合わなかった」と答えるのが無難でしょう。
「お前には関係がない」と答えるのもOKです。
ただし、「趣味が合わなかった」と答えるのはNG。
こう答えると、「お互いソ連人なのになぜ趣味が違うのか?」と言われサインを貰うことができません。
「ソ連人はみんな平等、みんな同じであるべき」という不文律があるため、「趣味が違う」ということは正しいソ連人ではないとみなされてしまうからです。
必要なものその3 「ソ連共産党地区委員会に認めてもらう」
ようやく履歴書に全部のサインを集めましたがまだ終わりではありません。
次はソ連共産党地区委員会に認めてもらう必要があります。
この委員会にはソ連共産党のベテランが沢山います。
彼らは質問をするのが大好きです。
覚えておいたほうが良いことの例として、
- ポーランド共産党のお偉いさんの名前
- 共産党の集会、いつ、何番の集会が行われたか
- ポーランド共産党の正式名称
ここで「ポーランド共産党」と回答してはどこへも行くことができません。正しく「ポーランド統一労働者党」という名前を覚えておきましょう。
会議は月1回。
毎回10~30人が審査され、2~3人が不合格となります。
余談ですが、不合格が出ると党委員会会長の祈願が悪くなります。
当委員会会長は履歴書に問題なしのサインをしているからです。
自分がサインをして認めたのに、会議で認められないのは気に触ります。
不合格者を出したことに関わる人々はおよそ2年ほど出世ができなくなるということです。
必要なものその4 「アンケート」
A3の書類に小さなフォントで両面びっしりと質問事項が書かれたアンケート用紙が3枚渡されます。
この質問事項全てに回答していきます。
妻の弟の職場まで記載するような細かいアンケートです。
必要なものその5 「旅行会社のチェック」
アンケートでOKがでるといよいよ旅行の購入になります。
インツーリストかスプートニクという旅行会社へ電話を入れましょう。
購入前に旅行会社による身辺調査が始まります。
この期間はなにも自分ではできないのでじっと待機です。
調査が終われば無事に旅行の購入ができます。
その他
上記の他にも色々と手続きが発生します。
出張の場合は上司が作る「秘密の履歴書」も必要でした。
1年間の海外出張は夢でした。その出張で一生分稼ぐことができたからです。
この長期出張は結婚していて子供がいる人が行きやすかった。
何故ならば、逃げれないように妻と子供を人質としてソ連へをいておくためです。
ただし、アフリカやモンゴルなどは逃げる場所がないので家族揃って出張先へ赴任できたそうです。
今回紹介したソ連の海外旅行への手続きについてどれほど大変だったかが分かる本を一冊紹介します。
『タチアーナの源氏日記 紫式部と過ごした歳月』
タチアーナ・L. ソコロワ‐デリューシナ 著
この作者、ソ連カルカルでも登壇した、おそロシ庵のMurasakitonboことカーチャの伯母で、源氏物語を初めてロシア語に完全翻訳して日本から勲章を授与されてるような偉い人。
ソ連時代、日本から何度か招待をうけていたのですが、今回説明した手続き以上の理不尽な反対にあい、結局ソ連時代は一度も日本へ来れなかったことが書かれています。
例えば、出国ビザではなく外国用パスポートを取得する段階で追い返されたり、
お偉いさんに、「源氏物語は世界で最も素晴らしい文学だから研究しに日本に行きたい。」と直訴しても、
「ソビエトの文学が最も偉大なはずじゃないのか!?」
と言われて追い返されたり…
他にも普段の生活について、ウォッカが売りだされると噂を聞いて店に並んだ話など、今回読み直してソ連に興味ある人には素晴らしい資料になるなと思ったのですが、現在は絶版。
残念。
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