ビーフストロガノフとはロシアを代表する料理の一つです。
ロシア語でбефстроганов。
беф(ベフ)はフランス語のboeuf(ブフ)、牛肉から。
строганов(ストロガノフ)はウラル地方の貴族、ストロガノフ家から。
諸説ありますが、ストロガノフ家の牛肉料理ということでбеф(ベフ)строганов(ストロガノフ)と名付けられた料理であることは確実です。つまり、
беф(ベフ)には「牛肉」以外の意味は一切ありません!!!
ビーフストロガノフは「ストロガノフ家のビーフ」です!
ロシア人にも一応確認しましたが、上記以外の意味は全くありませんでした。当たり前ですね。もちろん辞書にも他の意味は載っていません。
日本人でもロシア語を少しでもかじったことがある人なら、これは絶対にわかっていると思います。
しかし、ちょっと頭を抱えてしまうガセ情報を見つけてしまったのです。
ということで、本題は以下に続きます…
ネットに蔓延るビーフストロガノフに関する嘘情報
ある日、偶然見つけたサイトに目を疑うような情報が
ロシア語のビフの誤訳
ビーフストロガノフは、ロシア語で「ストロガノフ風」「ストロガノフ流」といった意味になります。
なんと、「ビーフ」はロシア語で「〇〇風」を意味する「ビフ」の誤植なんだとか!!
はあ?
と思いながら、他を検索してみると…
はあ??
はあ???
はあああ????
何言ってんだ!!!?お前ら!!!
ビーフストロガノフのビーフは牛肉以外の意味はないよ!бефстрогановのбефはビーフだよ!
ビーフのかわりに鶏肉をを使えばКурица по-строгановски(ストロガノフ風チキン)だし、ポークならсвинина по-строгановски(ストロガノフ風ポーク)、なんならКреветки по строгановски(ストロガノフ風シュリンプ)なんてのもあるよ!これらのどこにбефが入っているんですかね?
そもそも英語でもBEEF Stroganoffだしね。
この他にもいろいろと、この謎なガセ情報を載せてるサイトが見つかりました。
クソまとめサイトが間違ってるのは2000歩譲ってまあしかたないとして(ダメだけど)、料理、語源辞典を名乗るサイトや自分のとこで売ってる商品の情報間違えちゃ絶対ダメだろ…
(追記:というか、語源辞典を名乗るクソまとめサイトだったわ )
ちょっと気になってTwitterをググってみると、このどう考えても間違っている珍説を信じてしまった哀れな人達がかなり多く見られ、頭を抱えてしまいました。
もちろん「それはデマだ」と嗜めている方も多々おられましたが、なんかちょっと面白い感じの偽雑学のほうが拡散されてしまうのはこの世の常…
どうしてこんなことに…
このようなガセネタは、まずはWikipediaから始まるんじゃないのか?と考えました。
Wikipedia ビーフストロガノフ 2023年1月9日バージョンより
ビーフストロガノフ(ロシア語 бефстроганов (boeuf stroganoff)、または беф а-ля Строганов (bœuf à la Stroganoff), беф Строганов, мясо по-строгановски, беф-строганов)[1]は、ロシアの牛肉料理。
代表的なロシア料理のひとつと言われるが、創作料理とされる場合もある[2]。
なお、「по-」(по-строгановски)または「а-ля 」(а-ля Строганов)という言葉は、ロシア語で「~流」(「ストロガノフ流」)の意(フランス語の”à la”に相当)。「ビーフ」はフランス語のブフ(Bœuf 牛肉)に由来する[3]。ただし、本場ロシアでも鶏肉や豚肉を使用したアレンジ家庭料理は散見される[4]。
現在(2024年1月26日)見られる最新版は特に間違った記述は見られません。上記は正しい情報です。
Wikipediaは編集履歴を遡ってみることができます。初期の方から辿っていきます。
Wikipedia ビーフストロガノフ 2006年7月18日バージョンより
なお誤解されやすいが、「ビーフストロガノフ」の「ビーフ」は“牛肉”ではなくロシア語の“細切れ肉” という意味であり、発音も「ビフ」「ベフ」の方がより正解に近い。
2006年の7月18日で雲行きがやしくなってきました。
Wikipedia ビーフストロガノフ 2006年7月21日バージョンより
なお誤解されやすいが、「ビーフストロガノフ」の「ビーフ」は“牛肉”ではなくロシア語で”~流”、”~風” という意味であり、発音も「ビフ」「ベフ」の方がより正解に近い。
出ました、ここですね。現在流布されているデマとほぼ同じ内容です。
その後、このデマ文章が残り続け、2007年9月4日 (火)バージョンで一旦削除されます。
その後数年の沈黙を経て6年後、
Wikipedia ビーフストロガノフ 2013年3月31日バージョンより
ビーフストロガノフ(beef stroganoff、ロシア語ではбефстроганов(ベフストロガノフ)またはговядина по-строгановски)とは代表的なロシア料理のひとつである。「ベフ」は英語の「ビーフ」ではなく、ロシア語で「~流」であり、「ストロガノフ流」の意[1]。
ここで現在クソまとめサイトなどで流布されているデマとほぼ同じ文章が出てきました。
その後、細かい修正を加えられながら、
Wikipedia ビーフストロガノフ 2017年1月5日バージョンより
ビーフストロガノフ(beef stroganoff、ロシア語ではбефстроганов(ベフストロガノフ)またはговядина по-строгановски)とは代表的なロシア料理のひとつである。なお、「ベフ」という単語を英語の「ビーフ」ではなく、ロシア語で「~流」であり、「ストロガノフ流」の意[1]と主張する説もあるが、これを俗説とし、「ビーフ」はフランス語のブフ(Bœuf・牛肉)に由来する、と主張する考察も存在する[2]。ただし、本場ロシアでも鶏肉や豚肉を使用したアレンジ家庭料理は散見される[3]。
最終的にデマ情報はこのようになりました。現在私が確認したデマ文章の全てがこれで出揃いました。
そして翌日、
Wikipedia ビーフストロガノフ 2017年1月6日バージョンより
ビーフストロガノフ (ロシア語 бефстроганов (boeuf stroganoff)、または беф а-ля Строганов (boeuf à la Stroganoff), беф Строганов, мясо по-строгановски, беф-строганов)[1]。 代表的なロシア料理のひとつと言われるが、創作料理とされる場合もある。[2].
なお、「по-」(по-строгановски)または「а-ля 」(а-ля Строганов)という言葉は、ロシア語で「~流」(「ストロガノフ流」)の意。「ビーフ」はフランス語のブフ(Bœuf 牛肉)に由来する[3][リンク切れ] [4].。 ただし、本場ロシアでも鶏肉や豚肉を使用したアレンジ家庭料理は散見される[5]。
2017年1月6日にようやく正しい情報に更新されています。
つまり、2013年3月31日から2017年1月5日まで約4年に渡りデマが掲載され続けていた事となります。
まとめサイトがこのWikipediaのデマ情報を何も考えずコピペしていたことは明白となりましたが、では一体どこからWikipediaに流れ込んできたのでしょうか?
これは2013年のデマ情報に出典が書かれていたのですぐに見つかりました。
21世紀研究会編『食の世界地図』文藝春秋・P202
早速取り寄せます。
202ページ…
ありました!
そもそもビーフ・ストロガノフのビーフは英語の「牛肉」ではなくて、ロシア語で「~流」を意味するベフだったのである。
はあ?
何言ってんだ!!!?お前!!!
この本の著者はどこのどいつなんだ?と思っても21世紀研究会というよくわからない団体の名前しか出てきません。中の人が不明です。
そもそもこの本のレビューには、別の料理で似たような間違いの指摘があったり、出典の怪しいところがあると書いている方もおり、本自体が信頼性に欠けるもののような気がしてなりません。
ちなみにこの本の初版は平成16年5月20日。つまり2004年です。
Wikiのガセ情報初出が2006年なのでこの本がガセ情報の元になったのは確実ではないでしょうか?
たった一行の間違いが出版されたことにより、ここまでガセネタが広まるのはなんとも言えぬ恐ろしさよ…
追記:
Twitterでさらなる情報を教えてもらいました。
2003年9月22日発売『大使閣下の料理人(17巻)』に「「ベフ」というのはビーフという意味ではなく、「〇〇流」「〇〇式」という意味です」という記述があるそうです。
また、2003年4月25日発売の『話を盛りあげる究極の雑学 』にも同内容の記述があるとか。
両方とも2003年の出版。『話を盛りあげる究極の雑学 』のほうが5ヶ月ほど出版が早いのですが、マンガは雑誌掲載の数カ月後に単行本になるが普通なので、もしかしたら『大使閣下の料理人』のほうが世に出たのが早いかも?
さらなる情報を知っている方がいれば教えて下さい。
しかし、誰が言い始めたかは二の次。
一番言いたいことを最後にもう一度書いておきます。
беф(ベフ)には「牛肉」以外の意味は一切ありません!!!
ビーフストロガノフは「ストロガノフ家のビーフ」です!